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つららの戯言

つららの戯言

泥冒険家

<家路>

それは、なんでもない夕暮れだった。


森と里との境界。別にヤツを迎えに来たわけではなく、ただ、オオウスに頼まれていた政の算段を考えて、あてもなく歩いていたら、たまたま、通りがかっただけだった。


姫の護衛という珍しいお役目をいいつかり、ヤツは10日ほどこの森を離れていた。
女官をたくさん引き連れての護衛は、ヤツにとっては仕事というよりは、観光のようなものに違いない。

別にヤツのことは心配はしていない。心配なのには女官や、姫の方だ、違う意味でだが。



夕焼けが小高い丘に沈もうとしているのどかな静寂を、けたたましい馬の悲鳴と、逃げ惑う人々の声が引き裂いた。

姫が乗っているであろう輿とそれに伴う女官たちが僅かな兵に守られ走りこんできた。

盗賊か、それともまだなお燻ぶる地方小勢力の兵たちか、数十人の武装している男たちが姫の一団を襲ったらしい。


その男たちの真っただ中にヤツはいた。

姫たちを逃がし、しんがりとして、襲いかかる兵士どもの攻撃を一身に受け、防ぎ、退けていた。




美しいと思った。


返り血を浴びた顔を、
敵をあざ笑うように剣を振るう姿を、
金色にたなびく髪を、
心の臓を射抜くような強い瞳を、




逃れた姫たちは、この森の目前まで辿り着いていた。


私の出る幕はないな。


無力で無知な族たちは、屍を重ねるだけになるか、それとも逃げ帰ることになるのか、どちらにしても時間の問題だろう。



「風呂でも・・・用意しておいてやるか」


もうすぐ日が暮れる。政の算段より、まずは夕餉の仕度だと、森の奥へと歩みを進めた。



「ってめっ!! もうすぐうちだってのに、邪魔すんな!!」

いとしの我が家まで、あと少し。

【終】


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